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「ナオコと空飛ぶハンモック」

  • 山本鷹生
  • 2014年11月7日
  • 読了時間: 6分

七夕の日はナオコの5歳の誕生日でした。

夕方ころ、家に大きなプレゼントが届きました。

お父さんが箱を開け、縁側で台を組み立てています。

そして大きな布を台に吊るすと、それはなんとハンモックでした。

「わぁ! きれいなハンモック!」ナオコは大喜びです。

それはまるで植物のツタを編んだような、緑色のハンモックでした。

ナオコはさっそくハンモックに乗ると、ゆーらゆーらと揺れました。

涼しい風が背中を撫でます。

「あぁ 気持ちいいなぁ。」とナオコは言いました。

縁側でビールを飲んでいたお父さんが説明書を読みながら言いました。

「なになに、このおまじないを唱えると不思議なことが起こるらしい。」

「トバゴトバゴ・トリニダード・トバゴ。」とお父さんは言いました。

ナオコは元気よく「トバゴトバゴ・トリニダード・トバゴ!」と言いました。

するとどうでしょう。台に結ばれていたハンモックの紐がしゅるしゅると生き物のようにほどけ、

ハンモックは舟になって空へ駈け出していったのです。

「わぁ!すごい!」ナオコは声をあげました。

下の方ではびっくりしたお父さんが「ナオコー!」と呼んでいます。

ナオコは笑顔で「行ってきまーす!」と言いました。

もうすぐ夜です。空には星が瞬いていました。

街のライトもキラキラと輝やき、海も見えます。

(こんなことって初めてだわ!)とナオコはドキドキしました。

星の光と街の灯りが混じり合って、上も下も大きな夜空のようでした。

突然、白鳥座のデネブが声をかけてきました。

デネブは大きな輝く白鳥です。

「やぁ、珍しい舟だなぁ。どこへ行くんだい?」

「分からないわ!勝手に進んでいくんですもの。」

「じゃあ私が天の川を案内してあげよう。」

デネブはハンモックの紐をくわえてひっぱっていきました。

すると途中でさそり座のアンタレスに出くわしました。

アンタレスは言いました。「どうだい、立派な針だろう。これでちくっと刺してやろうか?」

「いやよ! やめて!」ナオコは恐ろしくなって叫びました。

デネブがスピードを上げると、

ハンモックはものすごい速さでアンタレスの尻尾をかいくぐりました。

しばらく行くと、ハンモックは天の川に到着しました。

大きな星の川が流れています。

するとどこからか悲しげな音楽が聞こえてきました。

こと座のベガという織姫が泣きながら、岩の上で琴を弾いていたのです。

「どうして泣いているの?」とナオコは聞きました。

「天の川の橋が流されてしまって、向こう岸に渡れないの・・・。」

それを聞いて、ナオコも悲しい気持ちになりました。

その時です。ナオコはひらめきました。

そうだ! あのおまじないを唱えてみよう!

「トバゴトバゴ・トリニダード・トバゴ!」

するとハンモックはツタがしゅるしゅると伸びるように大きくなっていきました。

「よしきた!」デネブはそう言うと片方をくわえて向こう岸へ飛んでいきました。

ナオコはもう片方を岩にぎゅっと強く結びました。

そうして、天の川には大きな吊り橋がかかりました。

デネブが「おーい、渡っていいぞう!」と呼んでいます。

ベガは「ありがとう!」と言って涙をぬぐい、にっこり笑いました。

ナオコも嬉しくなってにっこり笑い、ベガと一緒にハンモックの吊り橋を渡り始めました。

吊り橋は風に吹かれてゆーらゆーらと揺れています。

下をのぞきこむと、星の川がキラキラと流れています。

(揺れているのは私かしら。それとも星?)ナオコはドキドキしました。

向こう岸からはとても楽しそうな音楽が聞こえてきます。

どうやらお祭りをしているようです。

向こう岸に着くとわし座のアルタイルという彦星が待っていました。

アルタイルの後ろには銀色の大きな筒(スティールパン)をばちで叩いている楽隊がいます。

みんな楽しそうに踊りながら賑やかな音楽を奏でています。

わし座のアルタイルは「ベガ!」と名前を呼びました。

「アルタイル!」とベガも言って互いに駆け寄ると、二人は抱きしめ合いました。

そしてふたりはチューをしました。

ナオコはなんだか恥ずかしくなって顔が赤くなりました。

白鳥座のデネブは目をまんまるにしています。

銀色の筒の楽器にはたくさんの星が映りこみ、キラキラと輝いていました。

楽隊がばちで叩くと色とりどりの星がぱっと飛び出すような音色でした。

ナオコはみんなと歌ったり、踊ったりしてお祭りを楽しんだのでした。

次第に空の向こうが白くなってきました。もうすぐ夜が明けるのです。

「そろそろ帰らなきゃ。お父さんが心配しているはずだわ。」とナオコが言いました。

「でも、どうやって? ハンモックは吊り橋になってしまったよ。」とデネブは言いました。

ナオコは困って悲しくなりました。

(もう二度と帰れなかったらどうしよう・・・)と思うと悲しくなり、涙がぽろぽろこぼれました。

すると、ずっと下の方から声が聞こえてきました。

「ナオコー!ナオコー!」

お父さんとお母さんの声です。ナオコの顔がぱっと明るくなりました。

突然、足元から大きな凧がにゅっと現れました。

「凧につかまりなさーい!」とお母さんの声が聞こえました。

ナオコは「さようならみなさん!」と言うと、凧につかまりました。

ベガとアルタイルとデネブが手を振っています。

「しっかりつかまったかー?」お父さんの声です。

「いいわよ!ひっぱってー!」とナオコは大きな声で言いました。

ナオコを乗せた凧はだんだん下に降りて行きます。

とても高いのでナオコは怖くなり、目をぎゅっとつぶりました・・・。

ナオコが目を開けると、そこは朝の海辺でした。

お父さんとお母さんがにこにこと笑っています。

ナオコは「私、とってもすごい冒険をしたのよ!」と言うと、お父さんとお母さんに抱きつきました。

すると、お父さんとお母さんはナオコのほっぺにチューをしました。

ナオコは赤くなって目をまんまるにしました。

お父さんが「またハンモックに乗りたいかい?」と聞くと、

「うん!乗りたいわ!」とナオコは元気よく言いました。

お父さんが大きな凧をよいしょっとどけると、

向こうの浜辺にはたくさんのハンモックが並んでいました。

「わぁ素敵!」とナオコは言いました。

お父さんとお母さんとナオコは浜辺のハンモックに乗りました。

そして、お母さんが作ってくれたサンドイッチのお弁当を食べました。

空を見上げて、ゆーらゆーらと揺れながら・・・。

おしまい

はくちょう座(デネブ)

さそり座(アンタレス)

こと座(ベガ:おり姫)

わし座(アルタイル:ひこ星)

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