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「天気予報」

お父さんと幼い息子が夜、テレビを見ていました。 天気予報では気象予報士さんが明日の天気を伝えています。 それでは明日のお天気です。 明日の天気は曇りのち雨。所により快晴です。 降水確率は60%です。 「お父さん、降水確率60%ってどういうこと?」 「うーん、10回のうち6回は雨が降るということかな」 「じゃあ快晴は4回ってこと?」 「うーん、いや雨が降らないのは10回のうち4回ということじゃないかな。 快晴かもしれないし、曇りかもしれない」 「じゃあ不降水確率40%として、 100分の40分のAが曇りで、100分の40分のBが快晴ということ?」 「おまえ、また難しいことを言うね。…だいたいそういうことなんじゃないか」 「だとしたら100分の40分のAと、100分の40分のBの確立はいくつなの?」 「うーん、10回のうち6回が雨。4回がそれ以外だから、 晴れと曇りで2回づつくらいじゃないか」 「そっかー、なぜ天気予報はその確率を詳しく言わないの?」 「放送の時間が決まっているからすべてを言うわけにはいかないんだよ。 それにね、別にみんな知りたくないほど『ささい』な事なんだ」 「そう?僕、知りたいなぁ」 「おまえはまだ子供だからなんでも知りたがるんだよ」 次の日。その親子は商店街を歩いていました。 写真屋さんに用事があったのです。 とても暖かい日でした。 空気は冷たくて雲も空一面に広がっているけれど 太陽の陽射は強く、空は時折とても明るくなったりしていました。 まるで白く光る空に薄い繭があって包まれているような、 そんな気分になるのでした。 曇りと晴れと冬と春の間、二月は短い季節なのでした。 「お父さん、天気予報外れたね。折りたたみにしてよかったね」 「そうだね」 「でも僕、雨が降っても平気だな。濡れてっちゃうよ」 「雨に濡れると風邪をひくんだぞ。あと酸性雨で頭がはげる」 「酸性雨って何?」 「酸性の雨さ。体に悪いんだよ」 と言う父親の頭は生え際がやや後退し、まばらな感じが その兆しを見せ始めているのでした。 ゆるやかなしわが刻まれたその男は優しい調子で息子にいいました。 「おまえだって父さんがはげたら嫌だろう?」 「いやじゃないよ。僕、お爺ちゃんみたいに光る髪型にしたい」 父親は笑いました。 父親はふいに笑顔をきゅっと引き締めました。 向こうから歩いてくる「自然な毛髪の紳士」に睨まれたからです。 「こら、あまりそんなこと大きな声でいうんじゃないぞ」 「なんで?」 「世の中にははげていることが苦しくって苦しくってしょうがない人がいるんだよ」 「お父さんも苦しいの?」 「お父さんはまだもう少し大丈夫かな」 少し黙ってから男の子は言いました。 「お姉ちゃんだって心の底ではお父さんのこと好きだと思うよ」 「そうか」と父親はつぶやきました。 「お父さん、天気予報は何のためにあるの?」 「明日の天気を知るためさ」 「アシタノテンキヲシルタメ」と今度は男の子がつぶやきました。

おわり

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