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「夢際のアンパンマン」

夢際のアンパンマン

夜遅く仕事から帰ってくると

娘はまだ起きていた

外は台風がやってきていて

雨風が吹き荒れている

ずぶ濡れになった僕に

娘は、風呂に入れという

まだ2歳だというのに

母親のような素振りで

風呂から上がると

娘はまだ眠くないのか

飛んだり跳ねたりして遊んでいる

しばらくつきあっていると

娘は「アーンパーンチ!」と言って

僕に小さな拳を食らわせた

僕はバイキンマンの真似をして

「ハーヒフーヘホー!」とおどけて

やられてみせた

僕は娘を寝かしつけるため

ねんねすると

夢の中でアンパンマンに会えるよ

と、うそぶいて娘を横にさせ

添い寝した

娘はひとしきり歌を歌うと

そろそろ眠くなってきたのか

アンパンマンの登場人物たちの名前を

うわごとのように口に並べた

そして

娘は眠る間際

腕を伸ばした

僕の身体から何かを掴み出す仕草をし

それを口へと運び

もぐもぐとした

僕は娘の真似をして

娘の身体から何かを掴み出す仕草をし

それを口へと運んで

もぐもぐとした

何かを食べるジェスチャーは

娘と僕のいつもの遊びだ

娘はすーっと寝た

妻も寝ている

妻のお腹の中には赤ちゃんがいて

来月生まれる予定だ

僕はこれから晩御飯を食べる

今日はロールキャベツだ

例えば今の僕にとって

ロールキャベツは

アンパンマンみたいなものだ

ともすると

ロールキャベツを作った妻は

ジャムおじさんということになる

でも、妻のお腹の中で

妻の栄養を吸収している

赤ちゃんからしたら

妻はアンパンマンだ

すると

妻の母は

ジャムおじさんということになる

僕らはいつも

何かを食べて生きている

何かを食べなければ生きていけない

身体でも

心でも

僕は娘のアンパンマンになって

食べられることができたらいいのに

僕のおっぱいからお乳は出ないけど

どうにかして

食べられることができたらいい

たぶん

僕も妻や娘の栄養をもらって

生きているんじゃないだろうか

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