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ユリイカ 吉野弘特集

ユリイカの6月臨時増刊号は先日亡くなった詩人、吉野弘特集。 表紙のスケッチも吉野弘の絵だそうで、 こんな素敵な絵も描く人だったのか、と驚きました。。。 ご興味ある方は手に取ってみては。本屋へゴー。

そのユリイカの「吉野弘 代表詩 30選」の中、 最初に掲載されているのは「さよなら」という詩でした。

「さよなら」 吉野 弘

割れた皿を捨てたとき ふたつのかけらは 互いにかるく触れあって 涼しい声で さよならをした。

目には侘びしく 耳には涼しいさよならが 思いがけなく 身に沁みた。

ちょっとした皿だった。 鮎が一匹泳いでいる 美しくない皿だった。

ごく ちょっとした皿だったけれど 自分とさよならするのは たいした出来事だったに違いない。

皿のもろさは 皿の息苦しさだったに違いない。 ちょっとした道具だったけれど 皿は 自分とさよならをした。

ついでに 僕にも 涼しいさよなら聞かしてくれた。 さよなら!

人間の告別式は仰山だった。

社内きっての有能社員に ゆらめくあかりと たくさんの花環と むっとする人いきれと 数々の悼辞が捧げられた。

悼辞はほめかたを知らないように どれもみな同じだった。

――君は有用な道具だった ――有用な道具 ――道具 ――具

遺族たちは 嬉しさと一緒にすすり泣き 会葬者は もらい泣き 花環たちも しおれた。

ききわけのよい ちょっとした道具だった。 ちょっとした道具だったけれど 黒枠の人は 死ぬ前に 道具と さよなら したかしら。

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